2025年医療法改正の概要
診療所開設規制・美容医療機関の報告義務・管理者要件の厳格化
少子高齢化の進展に対応するため、2025年に医療法や健康保険法等が一部改正されました。
地域医療の提供体制の再構築等、重要な内容を含む一部改正であり、医療機関の経営に直結するインパクトの大きい内容を含んでいます。本コラムでは、医療法務を専門とする弁護士の視点から、特に注目すべき4つのポイントを指摘します。
※なお、本改正の運用指針については、付帯決議(衆参両院の厚生労働委員会による附帯決議)の内容も重要です。
1 診療所新規開業の規制強化
・改正のポイント
都市部などの「外来医師過多区域」において、病床の無い新たな診療所開設希望者に対する事前届出制度や外来医師過多区域における地域外来医療の提供についての要請・勧告制度が導入されました(改正医療法第30条の18の6第3項等)。
・重い行政処分
開設の中止や内容変更の勧告に従わない場合、「医療機関名の公表」に加え、通常6年の「保険医療機関の指定期間」が3年に短縮されるという強力なサンクションが科されます。
医師の偏在是正のための制度ですが、診療所の開設を抑制する作用もあることから、今後の医療機関の開設や運営に対し、大きな影響を与えるものと思われます。
2 美容医療機関への「定期報告義務」の創設
・改正のポイント
美容医療機関の管理者は、都道府県知事に対し、医療の安全の確保のために必要な情報を報告する義務が課されました(改正医療法第6条の12の2)。
・「是正命令」と「公表」
この報告義務については、2024年の時点で、既に美容医療の適切な実施に関する検討会報告書において言及がなされていたものですが、今回の医療法一部改正によりそれが条文として明記されたことになります。
美容医療分野は、対患者トラブルや広告規制違反トラブルが多いことが特徴です。行政がより詳細にその実態を把握するための法的根拠を整備したものといえるでしょう。
・実効性を伴う「是正命令」
新設された第6条の12の2第5項により、報告内容が不適切、あるいは医療安全に欠けると判断された場合、都道府県知事は管理者に対して「是正命令」を出すことが可能となりました。
・行政による「公表義務」
さらに同第4項では、報告された事項や是正命令の状況について、都道府県知事による「公表義務」が規定されました。
・実務上の留意点
これは、美容医療機関が医療広告ガイドライン、薬機法、景表法といった広告関連規制への対応はもちろんのこと、その他の事項についても医療法等の法令に従い、行政に「報告」できるレベルの内部コンプライアンス体制の構築が求められることを意味します。
現時点では、まだ、報告事項についての詳細が厚生労働省令で定められているわけではないですが、美容医療に携わる医療機関やその関連機関は行政の策定する厚生労働省令の内容等につき、今後の動向を注視し、報告事項に合わせてコンプライアンス体制を整備する必要性が高まったように思います。
3 保険医療機関における管理者要件の厳格化
医療法の一部改正と連動して、健康保険法第70条の1第1項が改正され、保険医療機関に限定されてはいるものの、管理者になるための要件が厳格化されました。
・従事経験の要件化
医師に関しては、臨床研修終了後に保険医療機関(しかも、病院に限定されています。)において3年以上の診療経験が要求され、歯科医師に関してもほぼ同様の要件が課されたのです。現職の管理者が職を失わないよう、一定の経過措置は設けられますが、医師が管理者となって独立開業するためのハードルが上がったように思います。
4 オンライン診療の「明文化」による法的根拠の確立
これまで、医師法の解釈と「指針(ガイドライン)」ベースだったオンライン診療の運用が、ついに医療法で直接定められました(改正医療法第2条の2や第14条の3から第14条の5)。
・場所の規定
医師がどこで診療を行い、患者がどこで受けるべきかといった「場所」に関する法的な線引きがなされます。
・今後の注視点
医療法に明記されたことで、保健所による立ち入り検査や指導の際の基準がより明確化され、従前の運用が変わる可能性があります。この改正部分は令和8年4月施行ですので、医療機関はシステムのセキュリティ対策や患者のプライバシー保護の見直しが必要になるかもしれません。
5 総括
今回の改正は、医療機関に対し、以下のような影響を及ぼす可能性があります。
・M&A・事業承継の検討
医師の偏在是正措置や管理者要件が厳しくなったことにより既存の医療機関を譲り受ける「事業譲渡」や「合併」等のニーズがより高まる可能性があります。
・内部コンプライアンス体制の再構築
特に美容医療機関においては、行政報告に耐えうる「安全管理マニュアル」や「広告チェック体制」の構築等とそれに基づく運用が必要になるでしょう(これは、複数の分院を展開している医療機関や多数の広告を打っている医療機関にとっては容易ではように思われます。)。
・人事戦略の見直し
管理者要件の厳格化に伴い、医療法人や一般社団法人における就業規則や雇用契約を最新の法令に適合させる必要が出てくるケースも出てくるように思います。
このように、今回の改正医療法への対応は、医療機関にとって優先度の高い「経営課題」ともなり得るものなので、早めの対応が必要になるでしょう。
丸の内ソレイユ法律事務所では、医療法改正に伴うリスク診断から、戦略的な分院展開、M&A支援まで幅広くリーガルサービスを提供しております。
医療法改正につき、気になることがありましたら、まずは、お気軽にご相談いただければと思います。

