医行為とは -意見書作成やカウンセリングは医行為になる?-
1. はじめに
医師法は、第17条において「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と規定しています。これは、医師以外の者が医業を行った場合、医師法17条違反となること、そして、当該行為を行った者には、「三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金」(医師法第31条1項1号)という刑事罰を課されることを意味します。
近年、各種検査の実施やその結果通知、さらには医学的意見書の作成といった業務がビジネスとして広がりを見せています。しかし、これらの行為が「医業」に該当する場合、医師資格を持たない者がこれらを行うことは法的に重大な問題となり得ます。
したがって、「医業」とは具体的にどのような行為を指すのかを正確に理解することは、医療関連ビジネスに関与する上で極めて重要であると言えます。
2. 医業(医行為)とは
「医業」は、医行為を業として行うことと解釈されています。
これに関連して、最高裁は、医行為について、「医療及び保健指導の属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」という解釈を示しています。
ある行為が医行為に該当するか否かについては、「当該行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方の関係、当該行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等を考慮した上で、社会通念に照らして判断するのが相当」という基準によって判断する旨判示しました(最決令2年9月16日判タ1487号161頁参照。)。
もっとも、この判示が示す基準に基づいても、医行為とそれ以外の行為とを明確に線引きすることは、実際には容易ではなく、なお不明確な部分が残されているのが現状であると言えます。
3. 医行為に含まれる診断とは
医行為には、「診断」行為が含まれると解されています。
この「診断」とは、行政上、「診察、検査等により得られた患者の様々な情報を、確立された医学的法則に当てはめ、患者の病状などについて判断する行為であり、疾患の名称、原因、現在の病状、今後の病状の予測、治療方針等について、主体的に判断を行い、これを伝達する行為」と定義されています(参照。)。
このように診断が主体的な医学判断を伴う行為である以上、その前提として患者を観察する行為である「診察」行為もまた、医行為に含まれると解釈されることになります。
4. 診断と鑑定
このように、診断行為が医行為に含まれる以上、医師以外のものが行うと医師法違反となります。
一方で、たとえ専門的な判断を示すものであっても、「診断」と評価できない行為であれば、「鑑定」という位置づけになって医行為に含まれないことになり、医師以外の者が行っても医師法に違反しないこととなります。
5. 該当例と非該当例
医行為として適法になる例と違法になる例の具体例につき、行政が一部見解を公表しているのが「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」です。そこに示されているものは概ね以下のとおりです。
・適法になる例
►検査(測定)結果の事実や検査(測定)項目の一般的な基準値、検査(測定)項目に係る一般的な情報を通知する場合
►当該利用者の検査(測定)結果と、医学的・科学的根拠があり、かつ客観的で民間事業者等により恣意的に変動させることが不可能な値(例:統計的に有意であるといえる程度の一定の母集団における平均値や数値分布であって、査読付き論文に依拠している値。これを図示したものも含む。)を、客観的に比較した結果を、医学的・科学的根拠とともに通知する場合
►当該利用者の検査(測定)結果が、医学的・科学的根拠があり、かつ客観的で民間事業者等により恣意的に変動させることが不可能な値に基づき設定された疾患のり患や健康状態の医学的評価に係るリスク分類(例:Aランク・Bランク・Cランク、リスク低・リスク高)のいずれに属するかといった、リスク分類との相対的な位置づけを医学的・科学的根拠とともに通知する場合。
・違法になる例
►無資格者である民間事業者が、利用者に対して、個別の検査(測定)結果を用いて、利用者の健康状態を評価する等の医学的判断を行った上で、食事や運動等の生活上の注意、健康増進に資する地域の関連施設やサービスの紹介、利用者からの医薬品に関する照会に応じたOTC医薬品の紹介、健康食品やサプリメントの紹介、より詳しい健診を受けるように勧めることを行う場合。
►無資格者である民間事業者が、利用者に対して、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患のり患可能性を通知する場合。
(なお、形式的に「これは一般的な情報提供である」等の注意書きをしていたとしても、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患のり患可能性を通知することは違法。)
►無資格者である民間事業者が、利用者に対して、利用者の個別の検査(測定)結果が、疾患のり患や健康状態の医学的評価に係るリスク分類のいずれに属するかを通知する場合で、当該リスク分類の根拠となる基準値について、実質的になんらの医学的・科学的根拠が示されていない場合や、民間事業者等が恣意的に設定している場合。
6. 実際の問題
⑴ 医学意見書の作成行為やカルテ画像精査結果の回答書作成行為
この点に関して、しばしば問題となると思われるのが、医学意見書の作成行為やカルテ画像精査結果の回答書作成行為です。
まず、医学意見書の作成行為についてです。
仮に、その作成の前提となる資料(カルテ等)を実際に当該患者を診察した医師から提供されたものであり、その資料のみに基づいて医学的意見のみを述べる場合、この意見提供者は患者を直接診察しておらず、「診察」という医行為の過程を経ていないことになります。
このような場合、当該医学的意見の提示は、患者の病状等について主体的な判断を下す「診断」とは評価されず、したがって医行為にも該当しないと解されます。つまり、診断に当たらない以上、この行為を医師以外の者が行ったとしても、直ちに医師法違反とはなりません。
したがって、医学意見書の作成を、株式会社や合同会社といった法人が業務として行うことも、医行為に該当しない限りにおいては、法的に許容されると考えられますので、株式会社や合同会社の業務として行うことも法的に可能と考えることもできるように思います。
次に、カルテ画像精査結果の回答書作成行為です。この行為は、あくまでもカルテや画像といったものを機械的に分析し、その結果を示すものに過ぎず、患者の観察(診察)や、その結果についての主体的な判断(診断)が行われていません。
したがって、カルテ画像精査結果の回答行為は「診断」ではなく、「鑑定」に過ぎないことから、医行為に含まれず、医師以外の者が行っても医師法に違反しないと考えることも可能のように考えられます。
近時、医療法人や一般社団法人ではなく、合同会社という形態をとって医学的意見書の作成業務をおこなっているケースが見受けられます。
実際には、当該合同会社に所属する医師が、意見書の作成やカルテ画像の精査結果に関する回答を行っていると推察されますが、そのようなケースは上述のような解釈で医師法違反となることを回避していると考えられます。
もっとも、カルテには患者の身体に関する情報が記載されており、たとえ患者と直接対面して診察を行っていなくても、当該情報を基に意見書を書く行為が「診断」に該当するのか、「鑑定」にとどまるかについては、必ずしも明確に判断できるものではありません。
実際、厚生労働省による「診断」の定義は、「診察、検査等により得られた患者の様々な情報を、・・・主体的に判断を行い、これを伝達する行為」とされており、患者を直接診察したということが定義上含まれておりません。
このことからすれば、カルテによって得た患者情報を基に判断を下す場合が明確に「診断」の定義から外されているわけではないと考えられます。
カルテ画像精査結果の回答行為についても同様の問題が生じ得ます。
一般に、カルテや画像には患者の身体に関する情報が記載されていることが多く、(マスキングされていれば別ですが。)、これらの資料を精査した上で、疾患の名称、原因、現在の病状、今後の病状の予測、治療方針等について、主体的に判断を行って意見を回答した場合、それは「診断」と評価される場合もありうると思われます。
したがって、医学意見書の作成行為やカルテ画像精査結果の回答行為が明確に「診断」にあたらず「医行為」ではないと判断することは難しいと思われます。このため、これらの行為を医師以外の者が行うことは医師法違反のリスクがあると考えられるため、仮に株式会社や合同会社の業務として行うとしても、それは会社内部の医師が行う方が、医師法違反のリスク回避の観点からは適切であると考えられます。また、意見書や回答書の名義も、会社ではなく医師個人とした方が、医行為の主体を明確にし、法的なリスクを低減する観点から望ましいといえるでしょう。
⑵ DTC遺伝子検査
近年、医療機関ではなく民間企業が提供する、体質や疾病のかかりやすさを判定するDTC(Direct-to-Consumer)遺伝子検査が広く普及しています。このような検査行為が「診断」として医行為に該当するかどうかは重要な問題となります。
検査結果に基づき、特定の疾病の罹患可能性を提示したり、医学的判断を伴う診断行為を行うことは、「診断」として扱われるため、医師資格を持たない者がこれを実施することは医師法に違反します。
しかしながら、医学的・科学的根拠に基づく客観的事実の提供や、一般的な情報提供の範囲内で疾病リスクについて言及する場合は「診断」に該当せず、その場合は無資格の民間事業者であっても実施が認められます。この際、利用者が提示された情報が客観的かつ根拠に基づく事実や一般的な基準値であることを認識できる程度に、医学的・科学的根拠が示されていることが必要です。
ただし、疾患のり患リスクに言及することは、一般的な情報提供の範囲内で実施する必要があり、DTC遺伝子検査の利用者個人に関する疾患のり患リスクに言及することはできません。
⑶ タトゥー施術行為とアートメイク施術行為
先ほど紹介した判決では、彫り師のタトゥー施術行為が医行為に該当するかが争点となりましたが、該当しないと判断が示されました。その理由として、「タトゥー施術行為は,装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義がある社会的な風俗として受け止められてきたものであって,医療及び保健指導に属する行為とは考えられてこなかったものである」こと、「歴史的にも,長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があり,医師が独占して行う事態は想定し難い」こと(上記の考慮要素のうちの、「実情や社会における受け止め方」)等が挙げられています。
これに対し、タトゥーと同様に、針等を用いて皮膚に色素を注入する行為であるアートメイク施術行為が医行為に該当するかという問題があります。この点については、行政上、医行為に該当すると考えられています(医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて令和5年7月3日医政医発0703第5号)。
彫り師によるタトゥー施術とは異なり、アートメイクは美容整形の一環として医師によって担われ、発展してきたという経緯があるため、社会的な受け止め方や実情の面で大きな違いがあると評価されています。したがって、タトゥー施術とアートメイク施術では、医行為としての該当性に差異が生じているものと考えられます。
⑷ 脱毛
脱毛行為については、施術の内容によって医行為に該当する場合があります。特に、レーザーを用いた脱毛行為に関しては、その使用機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線やその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭や皮脂腺開口部などを破壊する行為は、行政上医行為に該当するとされています(「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」厚生労働省平成13年11月8日医政医発第105号)。
他方で、光を照射すること等による一時的な除毛、減耗は、毛乳頭を破壊するものではなく、「保健衛生上危害が生ずるおそれのある行為」とはいえず、医行為には該当しないと考えられます。
⑸ 美容医療業界におけるカウンセリング行為
美容医療業界では、医師資格を有さないカウンセラーがカウンセリングを行うケースが多く見られます。しかしながら、そのカウンセリング内容が診断と評価されかねないカウンセリングが行われている疑いがあること、その結果として、医師の無診察治療が行われている疑いがあること等が問題になっています。
保健所が把握している事例として以下の事例が挙げられています。
►医療機関において、カウンセラー等の医師以外の無資格者が施術内容の決定や医療脱毛等の医行為を実施している疑いのある事例
►医療機関において、医師が診察する前に治療内容が決定し契約が締結される等、無診察治療の疑いのある事例
このような問題について現在議論が活発化しており、今後積極的に保健所により調査が行われる可能性があります。美容医療機関を運営される方々は、このような行為が生じないよう注意することが重要です。
⑹ 介護
介護に関する行為は、何らかの理由によって身体的機能が低下した者に対して援助することをいうため、一般論としては医行為には該当しないという認識が広く持たれていると思われます。しかしながら、医行為に該当する行為もあり得るため、行政も一定の見解を示しているところです(「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)〔保健師助産師看護師法〕」令和4年12月1日医政発1201第4号厚生労働省医政局通知)。
介護事業者の方々は、医師免許を有しない職員が医行為を行わないよう、注意する必要があります。
7. 総括
このように、医行為に該当するか否かの判断は、基準が不明瞭なこともあり、判断が難しいケースも存在します。医師以外の有資格者、例えば、保健師、看護師、助産師等は、医師の指示がある場合等において医行為を行うことが可能です(保健師助産師看護師法37条参照。)。
しかし、その際にも医行為に関する医師の指示書の適切な取り扱いや作成方法が問題となります。
医師の包括的指示のあり方については、厚生労働省が開示している「チーム医療の推進に関する検討会報告書」などが参考資料として挙げられます。
また、医師資格を有しない者が医療機関等において行う行為が、医行為に該当するか否かは、医師法との関係で問題となり得ます。
医療機関は勿論のこと、介護事業者等の医療に隣接するサービスを提供する事業者は、職員が医師法違反となる行為を行わないよう、どのような行為に医師資格が必要かについて常に意識し、適切な対応を講じることが求められます。