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医療法関連コラム

医療法人の社員総会で議決権を代理行使する場合の注意点

はじめに

株式会社等における株主総会や一般社団法人の社員総会では、当日に本人が出席しなくても、委任状を提出して代理人を出席させることで議決権行使ができます。
また、これらの場合における代理人による議決権の行使は、定足数(株主総会や社員総会が、法的に有効に開催されたとみなされるために必要な出席者数のこと。)という意味での出席者数(以下「出席」は特に断らない限りこの意味で使用します。)にカウントするのが実務の運用です。

しかしながら、医療法人においては、代理人により行使された議決権について、出席者数にはカウントしないというのが、現在の実務運用です参考

ただ、医療法では、社員総会を法的に有効に開催するためには、総社員の過半数の出席が必要とされています(医療法46条の3の3第2項)。そのため、社員の中に、遠方に住んでいる方や、体調や家庭の事情等の理由で実際に会場へ赴くのが難しい方がいる場合、特に社員数の少ない医療法人においては、必要な出席者数を確保することが困難となることがあります。

そこで、本コラムでは、次の2点について、詳しくご紹介いたします。

・前提として、なぜ医療法人では代理人による議決権行使が出席として扱われないのか
・現地会場に来られない社員を出席と取り扱うための具体的な方法について

 

医療法人で代理人による議決権行使が出席とみなされない理由

・一般社団法人に関する規律

医療法人の社員総会についての規律は、一般社団法人法及び一般財団法人に関する法律(以下本コラムでは「一般社団法人法」といいます。)の規定を多く準用していますので、まずは一般社団法人法の規定を確認します。

同法では、一般社団法人の社員総会において、代理人による議決権行使と、書面による議決権行使を明文で認めています(一般社団法人法第50条第1項、同法第51条第1項)。そして、書面による議決権行使については、「出席した社員の議決権の数に算入する」と規定され(同法51条2項)、出席者数にカウントするが明文で規定されています。

また、代理人による議決権行使についても、出席者数にカウントするのが実務的な運用となっております。

・医療法人の取扱いが異なるのは何故なのか

医療法人については、現在の実務運用においては、代理人による議決権行使は出席者数にカウントしないのが原則です。
もっとも、医療法人の社員総会においても、一般社団法人と同様に、代理人による議決権行使自体は、法律上明文で認められています(医療法46条の3の3第5項)。
では、なぜ医療法人のみ、出席者数の取り扱いが異なるのでしょうか。

この点につき、一つの根拠としては、医療法が、「出席した社員の議決権の数に算入する」と明記した「一般社団法人法第51条第1項」を準用していないこととのことです。
(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の第五十一条 書面による議決権の行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までに当該記載をした議決権行使書面を一般社団法人に提出して行う。2 前項の規定により書面によって行使した議決権の数は、出席した社員の議決権の数に算入する。とあります。)

もっとも、この条文はあくまで「書面による議決権行使」に関する規定であり、「代理人による議決権行使」について直接定めたものではありません。
したがって、この条文が医療法に準用されていないことをもって、法律上、代理人による議決権行使を出席者数に含めないことが明確に定められているとまではいえないでしょう。

そこで、より実質的な根拠について考えると以下のようになろうかと思われます。
すなわち、医療法の改正により、医療法人は、最低3名の社員がいれば設立できるようになっておりますが、社員が3名である場合において、そのうちの1人は議長となりますので、議決に加わることができません(医療法第46条の3の3)。そうすると、実質的に議決権を有するのは残り2名の社員となります。その2名の中で、さらに代理人による議決権行使を「出席」として認めるとなると、事実上、合議体による適切な議論はできないことになります。

このように社員総会において実質的な議論の場を確保するためには、代理人による議決権行使を「出席」として認めないことにより、社員本人の出席を促す必要があるのです。これが、医療法人において代理人による議決権行使を出席として扱わない実質的な根拠ということになると思われます。

このような懸念は、ある程度医療法人の規模が大きく、社員数も多い医療法人には当てはまらないようにも思えますが、そこは規模により線引きせず、一律に出席者数にカウントしないという方針にも一理あるとはいえるでしょう。

 

医療法人の社員総会における「出席」にカウントされるために

・オンライン会議の活用

都道府県においては、現地参加が難しい社員がいる場合には、オンライン会議を利用して出席することを推奨しているところもあるようです。
しかしながら、社員全員がオンライン会議で出席することは認められていません。

医療法が準用する一般社団法人法57条1項(厳密には施行規則第11条第3項第1号)は、社員総会の議事録につき、「当該場所に存しない…社員が社員総会に出席した場合における当該出席の方法」を記載することを定めていることからすれば、法の建付けとしては、一人もリアル参加しない社員総会を想定していないと解釈されるためです。

そのため、オンライン会議を利用して社員総会を開催する場合においては、必ずリアル会場を設けて、最低1名はその場所にてリアル参加する必要があるので、現地参加が難しい社員をオンラインで出席させる手段を採る際においても、その点については注意が必要です。

・オンライン会議の場合の招集通知や本人確認方法等について

リアル参加とオンライン参加を併用して社員総会を開催する場合(いわゆるハイブリッド形式の場合)、オンラインで出席する社員が適切に議決権を行使できるように、様々な配慮が必要です。例えば、以下のような点です。

まず、オンライン参加する社員への招集通知については、通常の記載事項に加えて、オンライン会議用のURLや、アクセスに必要なID・パスワードの記載が必要になるでしょう。また、議決権行使の具体的な方法についても、あらかじめ議論の上、招集通知に記載しておく必要があると考えられます。
また、開催場所とオンライン参加の社員とが双方向で円滑に議論できるインターネット環境の整備(特に通信断絶に対する対策)も必要となるでしょう。

さらに、オンライン参加の場合、リアル参加と異なり、社員の本人確認が簡単ではないため、その点についての工夫も必要となります。
本人確認の方法については、法律上明確な決まりはありませんが、経済産業省のハイブリッド型株主総会の実施ガイドが推奨する、社員固有のIDとパスワードを設定して事前に知らせた上、総会当日に社員がオンライン会議のログインする際に、当該IDとパスワードを用いたログインを求めるといった方法が参考になるかと思います。(参考

 

おわりに

ハイブリッド開催の場合には、上記の他にも、様々な準備が必要となります。現在の社会情勢に鑑みると、今後はオンラインを活用した社員総会に必要性は増大するものと思われます。本記事の内容について、詳しく知りたい方は、是非ご相談にいらして下さい。

 

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