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医療法関連コラム

患者紹介の適法性

1 はじめに

平成26年ころ、一部の保険医療機関が、訪問診療が必要とされる者が多く入居する施設・住宅から、患者の紹介を受け、紹介料を支払ったうえで訪問診療を行っていた事例が報道され、社会問題化したことがありました。そのような事態が生じたことから、保険医療機関が患者紹介の対価として金品等の経済上の利益を提供することは保険医療機関及び保険医療養担当規則によって規制されることになりました。しかし、保険医療機関及び保険医療養担当規則によって規制される、患者紹介の対価としての経済的利益の提供というものが具体的にどのような場合を指すのかは、必ずしも明らかではありません。そこで今回は、保険医療機関及び保険医療養担当規則による患者紹介に対する経済的利益提供の禁止について説明します。

2 療担規則と違反の効果

患者紹介に対する経済的利益提供を禁止している法令は、健康保険法の委任を受けた療担規則です。療担規則第2条の4の2第2項(以下「療担規則」といいます。)は、「保険医療機関は、事業者又はその従業員に対して、患者を紹介する対価として金品を提供することその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない。」と規定し、保険医療機関が、患者紹介の対価として経済上の利益を提供し、患者を誘引することを禁止しています。当該規定に違反した保険医療機関は、健康保険法違反となり、刑事罰を課されることはないものの、保険医療機関指定取消という罰則を受ける可能性があります。これは、医療機関が保険診療を行うことが出来なくなるという意味で、極めて重い罰則といえます。

3 療担規則第の趣旨

療担規則の趣旨は、2つあります。

1つは、患者が保険医療機関を自由に選択できる環境を確保するというものです。具体的には、保険医療機関が患者紹介を受け、紹介料を支払うことは、特定の保険医療機関への患者誘導につながり、患者の自由な選択が害されることになるから、これを防止するということです。

もう1つは、健康保険事業の健全な運営の確保です。具体的には、患者紹介に対し、保険医療機関が対価を与えることを放任すると、患者を経済上の取引の対象とすることに繋がり、保険診療そのものや保険財源の効果的・効率的な活用に対する国民の信頼を損なうから、これを防止するということです。

4 経済的利益の意味

療担規則は、保険医療機関が患者紹介の対価として経済上の利益を提供することを禁止しているため、経済上の利益が具体的に何を指すのか知る必要があります。

そして、療担規則が提供を禁止する経済上の利益とは、行政上、金銭、物品、便益、労務、饗応等を意味し、商品又は労務を通常の価格よりも安く購入できる利益も含まれるとされています。そして、経済上の利益の提供を受ける者として行政上想定されているのは、主に、患者紹介を行う仲介業者又はその従業者、患者が入居する集合住宅・施設の事業者又はその従業者等とされています。

5 患者の誘引の意味

療担規則は、保険医療機関による患者の誘引を禁止しているため、患者の誘引とは具体的に何を指すのか知る必要があります。行政は、患者の誘引が行われているか否かについては、保険医療機関が有する診療録に添付された訪問診療の同意書、診療時間(開始時刻及び終了時刻)、診療場所又は診療人数等を参考として、決めると解しています。

6 具体的問題

では、提携している医療機関の間における紹介は療担規則に反するでしょうか?例えば、保険医療機関の指定を受けているAクリニックが保険医療機関の指定を受けていない(自由診療しか行っていない)Bクリニックと提携し、患者を紹介し合い、紹介料を払い合うということは、療担規則に反するかです。

AクリニックがBクリニックに患者を紹介し、紹介料を受領することは療担規則第2条の4の2第2項に違反しません。療担規則第2条の4の2第2項が禁じているのは、あくまで「保険医療機関」による経済的利益の提供と患者の誘引であり、保険医療機関ではないBクリニックが経済上の利益を提供して患者を誘引することを禁止していないからです。

逆に、BクリニックがAクリニックに患者を紹介し、Aクリニックが紹介料を提供することは、療担規則に違反することになります。Aクリニックは保険医療機関だからです。

問題となるのが、AクリニックもBクリニックが保険医療機関の指定を受けているが(その場合でも、Bクリニックが自由診療を行うことは可能です。)、BクリニックがAクリニックから自由診療の患者の紹介を受け、紹介料を支払ったような場合です。このような場合、療担規則に反するか否かについては、明確な見解が行政からも示されておらず、判断は分かれることになります。療担規則は、あくまで保険診療に関する規則であるから、自由診療の場合に適用されないと考えるなら、療担規則に違反しないことになります。逆に、Bクリニックも保険医療機関であることに変わりはないとして、療担規則を適用されると考えるなら、療担規則に違反することになるでしょう。

また、訪問看護ステーションのように、運営主体は株式会社であるが、介護保険や医療保険保険が使用できるサービスを提供している場合に、訪問看護ステーションが他の会社等から患者の紹介を受けて紹介料を支払った場合に療担規則に違反するかも問題となりえますが、あくまで運営主体が株式会社である以上、訪問看護ステーションは「保険医療機関」に該当せず、療担規則の適用がないことから、療担規則に反することにはならないと思われます。

このように、保険医療機関、もしくは医療保険を一部用いている株式会社による患者紹介のための対価の支払いが、療担規則に違反するか否かは、必ずしも明らかではない事例が存在することには注意が必要です。

近時、有料制のクリニックの紹介サイト、有料制の患者と医療機関のマッチングサイト、国内コーディネート機関による医療機関と外国人患者の仲介、といった新たなサービスが出てきています。このようなサービスにおいて、患者を紹介する事業者が何らかの形で対価を医療機関等から受け取った場合、療担規則に違反するのか否かは、必ずしも明らかではありません。

このようなサービスの提供を試みようとしている事業者は、事業内容が療担規則に抵触するか否かにつき、慎重に判断することが重要です。

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