Marunouchi Soleil Law Office
Professional Corporation

弁護士による病院・クリニックのための法律相談

Medical
LawColumn
医療法関連コラム

近時の医療広告に対する規律について

1. はじめに

近時、ウェブサイトやSNSにおける医療機関等の広告のあり方について、相談を受ける機会が増えております。医療機関等に関する広告規制については、関係者においてもその具体的な範囲や内容が十分に把握されていない場合があり、その結果として、予期せぬ行政指導を受けたり、風評被害を招いたりする事例も見受けられます。
そこで、以下では、医療法等の観点から、医療機関等の広告規制のあり方について説明します。

 

2. 医療広告規制に関する法律等

医療法は、医療広告のあり方について規制し、医療法の委任を受けた医療法施行規則や医療法施行令がその内容をより詳細に規定しています。
また、厚生労働省によって通知された「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」(平成30年5月8日付医政発0508第1号厚生労働省医政局長通知(改正:令和6年9月13日))。以下「医療広告ガイドライン」といいます。)や、「医療広告ガイドラインに関するQ&A」(平成30年8月10日付厚生労働省医政局総務課事務連絡)(改正:令和7年3月11日)、「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)」(最終改正:令和7年3月11日)において、医療広告規制の具体例が示されています(これらの関連法令をまとめて、以下「医療広告関連法令」といいます。)。したがって、医療機関等に関する広告を行う場合には、医療広告関連法令を確認する必要がありますし、場合によっては、広告を行う前に当局(都道府県、市の保健所等医療機関を所管する自治体の窓口)に確認をとるべきです。

 

3. 医療広告関連法令の適用対象と効果

医療広告関連法令の適用対象は、医療法第6条の5第1項において「何人も」と規定していることから、医療広告に関する規制を受けるのは医師、歯科医師、病院などの医療機関に限られません。例えば、医療機関から依頼を受けた広告代理店、アフィリエイター、いわゆるメディカルサービス法人(以下「MS法人」といいます。)が医療機関に関する広告を行った場合も、医療法上の広告規制は及びます。したがって、アフィリエイターやMS法人が医療機関からの依頼に基づいて広告を掲載する際も、広告内容が医療広告関連法令に照らして適切な表現となっているかを精査する必要があります。

医療広告規制に違反した場合、具体的には虚偽の広告をした場合などには、医療法上は6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(医療法第87条第1号)。つまり、刑事罰を科される危険があるわけです。
もっとも、広告規制に違反しても即時に刑罰が科されることはめったになく、まずは、厚生労働省医政局総務課から注意喚起がなされ、中止命令、是正命令がなされても、それでも違反が是正されなかったような場合に刑罰が科されることになるのが通常です。

 

4. 医療広告の要件

医療機関が患者や潜在的利用者に対し発信する表現の全てが医療広告に該当するわけではありません。
医療広告とは、①患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)②医業もしくは歯科医業を提供する者の氏名もしくは名称、または病院もしくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)、という2つの要件を満たす必要があります。
※以前は、この2つの要件に加えて、一般人が認知できる状態にあること(認知性)という要件が必要とされており、ウェブサイトはこの認知性の要件を満たさないことから医療法上の広告規制には服さないとされておりましたが、現在は、認知性の要件は不要とされたため、ウェブサイトも医療法上の広告規制の対象となっています。

 

5. 広告可能事項について

医療法上、医療広告が可能な事項は限定されており、医師または歯科医師である旨や診療科名、診療日時等といった極めて限られた事項しか広告できません。
もっとも、患者等への適切な情報提供及び選択が損なわれるおそれが少ないとされる限定解除の要件を満たした広告については、例外的に広告可能事項として定められた事項以外についても広告・表示が可能としています。

広告可能事項の限定を解除するための要件は、①医療に関する適切な選択に資する情報であって、患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること、②表示される情報の内容について、患者等が容易に照会できるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること、③自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること、④自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること――の4つです。※保険診療のみ行っている医療機関の場合は、①と②の2つの要件のみ充足すれば広告可能事項の限定解除は可能となります(つまり、立て看板、院外で配布するチラシ、テレビCMなどの広告媒体は、患者等が自ら求めて入手する情報を表示する広告でないため、そもそも広告可能事項の限定解除はできません。)。

医療機関等が特に広告によって訴求したいと考える自由診療の治療内容、治療効果、費用等は、医療法が定める広告可能事項に含まれていません。したがって、これらを広告するためには、広告可能事項の限定解除の要件を満たす必要があります。

 

6. 広告禁止事項について

医療広告関連法令は、広告可能事項の限定とは別に、広告禁止事項を定めています。具体的には、虚偽広告、比較優良広告、誇大広告、公序良俗に反する内容の広告、患者その他の者の主観又は伝聞に基づく治療等の内容又は効果に関する体験談の広告(以下「患者の体験談」といいます。)、治療等の内容または効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前または後の写真等の広告(以下「ビフォーアフター写真」といいます。)、薬機法・景品表示法等他法令違反の広告、品位を損ねる内容の広告が禁止されます。これらの広告禁止事項については、広告可能事項の限定を解除したとしても広告することはできないため、注意が必要です。

最近は、医療機関や医師個人のアカウントで作成されたインスタグラムなどのSNSにおいてもよく見られるビフォーアフター写真ですが、全てのビフォーアフター写真を用いた広告が違法となるわけではありません。ビフォーアフター写真を掲載する際は、写真とともに、通常必要とされる治療内容・費用等に関する事項や、治療等の主なリスク・副作用等に関する事項等の詳細な説明を付した場合については、広告が禁止される「治療等の内容または効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前または後の写真等の広告」には当たらず、広告が可能となります。

ただし、これらの必須記載事項を加筆した場合であっても、ビフォーアフター写真により訴求を意図した治療効果は、そもそも広告可能事項ではないため、限定解除の要件を満たした広告においてのみ掲載が可能なことに中が必要です(なお、自由診療の限定解除の要件③、④は、ビフォーアフター写真の必須記載事項と重なります)。

 

7. 新たなウェブ上のサービスにおける口コミ

近時は、ウェブサイト上のサービス内容が急速に拡大し、医療広告にあたるのか否かが必ずしも明確でない事項も増えています。
その具体例の一つとして、グーグル社の提供するサービスであるナレッジパネルに付属する口コミ部分や、医療機関ポータルサイトに付属して口コミ部分が、医療広告関連法令が禁止している患者の体験談にあたるのではないかというものもあります。

このような第三者が運営するいわゆる口コミサイト等への体験談が広告に当たるかどうかは、医療広告の要件の一つである「誘引性」の有無で判断されると思われます。例えば、医療機関が患者やその家族に(有償・無償を問わず)肯定的な体験談の投稿を依頼した場合や、体験談の投稿自体を依頼していなくても、ウェブサイトの運営者に対して体験談を医療機関の有利に編集することを依頼したり、このような編集をするウェブサイトの運営費を医療機関が負担したりする場合には、当該体験談に「誘引性」が生じ、医療広告に該当します。他方で、医療機関等からの依頼とは無関係に自らのSNSで感想を投稿するなど、前述したような事情がない場合には、「誘引性」が認められず、医療広告には該当しないと思われます。

近時のウェブサイト上の新サービスは、刻々と新たなものが登場するため、医療広告規制が及ぶか否かについて明確な指針が示されていないものもあり、医療機関等がそれらのサービスを利用する際には、特に注意が必要でしょう。

 

8. 医療広告規制の現状

厚生労働省は、医療広告の監視指導体制の強化のため、ネットパトロール事業を発足させ、委託事業者に医療広告に関するネットパトロールを行わせています。

令和5年度中に審査対象となったサイト数は1154件(対象施設は2409件)に上り、医療広告規制違反の疑いありとして医療機関に通知がなされたケースは1098件(対象施設2233件)に上ります(厚生労働省・令和6年8月22日付第4回医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会・資料「ネットパトロール事業について(令和5年度))参照。)。
また、同じく厚生労働省は、令和6年8月23日、長期未改善事例へ適切な対応などより実効性のある対応を求め、各自治体に対し、通知・措置命令等のプロセスや各プロセスの所要時間を具体的に示した「医療広告ガイドラインに基づく標準的な対応期限も含めた指導・措置等の実施手順書のひな型」を交付しました。

更に、医療広告規制に関する医療広告ガイドラインが広く知れ渡った結果、迂闊に医療広告等を行うと、医療機関等が他の医療関係者から医療広告ガイドライン違反を指摘されたり、インターネット上で風評被害を受けてしまうという事態も発生しています。また、SNSの発展により、医療情報へのアクセスが容易になった一方で、不十分な情報提供に基づく、健康被害などのトラブルも懸念されています。

これらのことから、医療広告に対する行政の監視指導体制は今後より厳しくなることが予想されます。実際、注意喚起を受けた医療機関等は増えており、また厚生労働省も、事例解説書の改定により、医療痩身、再生医療、エクソソーム等、流行に即した違反広告の具体例の提示を進めています。医療機関等は、引き続きこのような医療広告規制の動向を注視することが必要です。

 

 

病院・クリニックの方からのご相談は初回無料で承っております。
また、医院に出向いての出張相談にも対応いたします。まずはお気軽にお問い合わせください。