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弁護士による病院・クリニックのための法律相談

Consultation / Solution cases相談・解決事例

医療従事者でない理事達が理事長の辞任を許さなかった事例

事案の概要

本件は、ある医療法人において、理事長以外の理事および社員がすべて医療従事者ではない状況下で発生した事案です。
理事長が退任・退社の意向を示したにもかかわらず、他の理事および社員によってこれが拒否され、結果として理事長が自らの意志で退任・退社することができないという事態に陥っているというものでした。
さらに、理事長以外の理事・社員によって、理事長以外の理事報酬が不当に高額に設定されているという状態でした。

 

弁護士への依頼背景

本件においては、理事長を除く他の理事は全員、医療従事者ではなく、いずれも医療関連資格を有しない者であり、医療業界とは無関係の会社出身者で構成されておりました。彼らは、医療法人に対して出資はしていたものの、医療関連行為には一切関与しておらず、実際の医療行為等に携わることはありませんでした。

それにもかかわらず、彼らは理事という立場であることを理由に理事報酬を受領しておりました。
理事報酬の原資となる医療法人の収入の大部分を実際に生み出していたのは、医師である理事長本人であったため、理事達は、収益の源泉となっていた理事長の辞任を強く拒み、辞任を阻止しようとする状況に至っておりました。

医療法人においては、法的(定款も含みます。)には、理事長の設置が必須とされており、理事長が退任の意向を表明したとしても、後任者が見つかるまでは、理事長としての権利義務を引き続き負担しなければなりません。

また、医療法人所属の診療所が医療行為を行うためには管理医師の存在が必須であり、管理医師が辞めると診療所を休止することになってしまいます。そうなると患者が放り出されてしまうのみならず、医療法人の経営も成り立たなくなります。したがって、管理医師も事実上、後任が見つかり管理医師の変更届を行うまでと辞めることはできないのです。

医療法人が診療所を1つしか有していない場合、理事長と診療所の管理医師は通常、同一の医師が務めることになります。
このような場合、その医師が理事長を辞める場合、理事長の後任と管理医師の後任を見つけるという2つのハードルを超えなくてはなりません(後任の管理医師が理事長も併せて引き受ける意向を示している場合は、ハードルは1つで良いのですが、法律上、管理医師=理事長ではないため、管理医師の後任が理事長の後任も務めるとは限らない点に注意が必要です。)。

 

解決までの流れ

まずは、依頼者に、過去の社員総会、理事会の議事録・録音を全て提出していただき、分析致しました。
その結果、社員総会の録音の中に理事長が、直近の社員総会において、重任を拒否し、仮に理事長を続けるにしても、半年であることを条件とすることを明言している記録がありました(その事実は、医療法人側の作成した議事録には掲載されておらず、理事長は重任と記載されておりました。)。その医療法人の定款において理事の任期は2年と決められていたため、半年の任期というのは事実上、重任の拒否と同じです。それを証拠として、理事長の重任は拒否、理事長の任期は満了していると主張し(理事の任期は2年だったため、重任とされていると最悪、医療法人の理事長の売り上げ2年分を損害賠償を請求される恐れがありました。)、理事長の重任について記載されている社員総会議事録への署名押印と提出も拒否しました(この時、社員総会の議事録が理事長の署名押印のない状態で理事長の手元にあり、医療法人や行政に提出されていなかったのが僥倖でした。)。任期満了による退任とすることで、医療法人側からの損賠請求をかろうじて避けることができました。

また、理事長は医療法人の理事・社員を外れた後には、新規で診療所を立ち上げ独立する予定でしたが、理事長が元々診ていた患者の多くが理事長による診療の継続を希望し(理事長への患者からの信頼は絶大で、人気がありました)、そのことを辞める予定の医療法人宛に書面で懇願までしていました。

理事長が患者を新たな診療所で診断した場合、その員数によっては、辞めた医療法人から、患者の引き抜きであると主張され損害賠償請求を受けるリスクがあります。しかしながら、診療の継続を希望する患者の意向を無視し、放り出すことは医師としての倫理に反することになりますし、何より自らが長年にわたって診療を続けてきた患者に多大な迷惑がかかってしまいます。理事長もその点に非常に苦悩していたことから、患者の意向をどこまで尊重し、理事長の新規診療所で継続的に診療するかについては、患者のみならずケアマネージャーの意向も聴取した上で綿密な調整を行いました

その結果、本件では最終的に、理事長は医療法人の理事・社員を外れ(理事長の意向として、長らく勤務し続けた医療法人とは極力揉めた状態で理事長を退任することはしたくないというものがありましたので、本件では、後任理事長が見つかるまでは待ち、行政機関に苦情を述べるといった厳しい手法は極力用いずに進めました。)、新たに診療所を設立することができ、現在に至るまで医療法人から損害賠償請求も受けておりません。

 

解決のポイント

株主総会指導の経験があったため、社員総会の記録がどのように保存されているか把握しておりました。
そこから、必要な資料を早期に依頼者に提出していただき、(依頼者が、社員総会、理事会の議事録や録音データを保有しており、提出を要求したら迅速に提供してくれたことも非常に大きなアドバンテージになりました。)、分析し、こちらに有利な決定的な証拠を抽出できたことがポイントです(この時、録音の反訳作業に慣れている当事務所の事務員達が、膨大な量の録音を1日で反訳し、弁護士に提出したことも交渉を行う上で大きなアドバンテージになりました。)。

また、医療機関における従業員・患者の引き抜きに関する裁判例は、事前に把握していたため、依頼者が新規独立するにあたって、検討すべき問題点とリスクは初回相談の段階で案内可能でした。初期対応から、良い結論に最終的に繋がったのではないかと思っています(これは、依頼者の準備・協力と事務員の協力があってこその結果だと思います。)

また、私自身、前職において診療所の設立の経験があったため、理事長の新クリニック設立までに必要な期間、そのために医療法人の管理医師をいつまでに変更しなくてはならないかといったこと把握しており、理事長による新診療所での診療まで、空白期間を作らない(これを作ってしまうとその期間、患者が放置されるという最悪の結果になります。)ような対応が可能になりました。

 

事案総評

本件は、医療法人でありながら居宅介護支援事業所・訪問看護ステーションの運営も行った医療法人の案件でした。
理事長が社員・理事を外れるに伴い、退職の申し出や整理解雇を言い渡された看護師やケアマネージャーも多数おり(訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所の閉鎖も関連していたのです。)、患者の移行も含め、理事長が所属していた医療機関との関係調整が極めて難しい事案でしたし、理事長名義でリースしていた物件の契約者変更等の後処理も必要となりました。新型コロナウィルスの感染拡大に伴う整理解雇や訪問看護ステーションの閉鎖と事業譲渡といった、労働法、会社法に関連する極めて多岐にわたる論点が内包されており、いわゆる医療法人の支配権争いの案件の中でも、極めて難しい判断が必要となる案件でしたが、医療法以外の関連法令を横断的に駆使して紛争解決に結びつけることができました。

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