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医療法関連コラム

遠隔診療・オンライン診療をめぐる法律関係

近年、パソコンやスマートフォン等の情報通信機器が広く普及し、それらを活用した「オンライン診療」という新しい診療の形が増えてきています。

最近では、医療機関と連携し、遠隔診療のプラットフォームを提供する企業も多く、様々なオンライン診療サービスが登場しています。
今後もこの分野のさらなる発展が見込まれることから、今回は、「遠隔診療・オンライン診療」をめぐる法律関係についてご紹介します。
※この記事は、令和7年6月末時点の法令等に基づいたものです。

 

1.遠隔診療が、医師法に抵触しないよう注意

前提として、遠隔診療をビジネスとして成り立たせるためには、それが法律に則って適法であることが不可欠です。ここで特に注意すべき法律が「医師法」です。
医師法第20条では「医師は自ら診察しなければ、治療をし、診断書・処方箋を交付してはならない」と定められており、いわゆる無診察診療の禁止を規定しています。

では、遠隔診療は医師法に違反するのでしょうか?これについては長年議論が続いていました。

平成9年12月24日付の厚生省の通知(以下、平成9年通知といいます。)により、直接の対面診療に代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合など適切に実施される限りは、遠隔診療を経た治療・処方箋の交付等は無診察診療にはあたらず、医師法第20条には抵触しないことが示されました。ただし、当然ながら、遠隔診療・オンライン診療であっても、医師の診察無しに処方等を行うことは、医師法第20条違反となりますので、注意が必要です。

 

2.遠隔診療の歴史と適法範囲の拡大

平成9年通知以降、厚生労働省は複数の通知や指針を通じて、遠隔診療の適法といえる範囲は徐々に拡大されてきています。その変遷を、時系列で見ていきましょう。

►平成9年通知
この通知では、遠隔診療は、「直接の対面診療が困難な場合にのみ行われるべき」とされ、離島やへき地における限られた場合のみ用いることが想定されていました。

►平成15年の改正
この改正では、遠隔診療によって患者の療養環境の向上が認められる場合には、症状の安定している慢性期疾患患者に対する遠隔診療が可能となり、在宅難病患者に対する助言指導等、遠隔診療が可能な場合が別表として明示されました。

►平成23年の改正
この改正では、別表で明示された事例は例であることが明示され、遠隔診療が適法とされる範囲が広がりました。

平成27年8月10日付事務連絡
この通知では、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは「遠隔治療の前に、必ずしも対面診療を行わないとならないわけではない」と示されました。これを受け、遠隔診療を事業として行う企業が次々と参入するようになりました。

►平成28年3月18日付通知
この通知においては、「電子メールやSNSなど、文字および写真のみによって遠隔診療を行い、対面診療を行わずに診察を終えることは、医師法20条に違反する」という見解を示しました。つまり、文字や写真のみの診察は許されず、映像と音声による診療が必要であるとされています。

►平成29年7月14日付通知
この通知においては、初診から遠隔診療を行える場合があることや、電子メールやSNSを利用した遠隔診療は、テレビ電話と組み合わせることにより、医師法第20条に抵触しない場合もあることなどが確認されました。

 

3.最新のオンライン診療を取り巻く状況と今後の動向

►平成30年3月「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の公表
この指針では、これまで遠隔診療と呼ばれていた情報通信機器を用いた診療は「オンライン診療」と定義付けられました。
そのうえで同指針において、オンライン診療を実施する際に「最低限遵守する事項」と「推奨される事項」が示され、「最低限度遵守する事項」に従いオンライン診療を行う場合には、医師法第20条に抵触するものではないことが明確に示されました。
※これに伴い、平成30年度診療報酬改定において「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」等が新設され、保険点数として算定可能となりました。なお、令和4年度診療報酬改訂により、「オンライン診療科」は廃止され、「情報通信機器を用いた医学管理科」等が新設されています。

►令和元年7月31日一部改訂
それまで、初診は、原則として直接の対面診療が求められていましたが、患者が医師とともにいるオンライン診療(D to P with D)においては、情報通信機器を通じて診療を行う医師が、患者の側にいる医師から十分な情報が提供されている等の要件を満たす場合、たとえ初診であってもオンライン診療を行うことは可能という見解が示されました。

その一方で、診療計画は2年間保存しなくてはならないこと、原則として医師と患者双方が身分確認書類を用いて本人確認を行うこと、OSやソフトウェア等の適宜アップデートするなどセキュリティ面の確保すること等、適切な遠隔診療のため、厳格化される項目もありました。さらに、令和2年4月以降、オンライン診療を行う医師は厚生労働省が指定する研修を受講しなければならないことも定められました。

►令和2年4月10日の事務連絡
この連絡では、新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえ、同感染症が収束するまでの時限的・特例的扱いを定め、初診から電話又はオンライン診療を行うことが可能になりました。同時に、過去の診療録等から患者の基礎疾患の把握できない場合の処方日数は7日を上限とするという制限も設けられました。
※本事例的・特例的取扱いは、令和6年3月末をもって終了しています。オンライン診療の時限的・特例的取扱いが終了した現在、オンライン診療は、「オンライン診療の適切な実施に関する指針(令和5年3月一部改訂)」に基づいて行うべきとされています。

►令和4年1月28日付改訂
この改訂において、かかりつけ医師や過去の診療録等から医学的情報を十分に把握できる場合など、初診からオンライン診療を行える範囲が拡大されました。

►令和5年3月30日付改訂
この改訂においては、初診のオンライン診療時の本人確認は、原則、顔写真付きの身分証又は顔写真付きの身分証が無い場合は2種類以上の身分証を用いるべきこと、医療機関の問い合わせ先の明示が求められたほか、医療機関におけるセキュリティ面の責任分界点の明確化など技術革新の状況を踏まえた情報セキュリティ方策の見直しが行われています。

►令和6年3月29日「歯科におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」の策定歯科の特性を踏まえたオンライン診療の実施にあたり「最低限遵守する事項」、「推奨される事項」等が整理されました。また、医療機関向けに、適切なオンライン診療の普及を目的として、導入の手順を整理した「オンライン診療の利用手順を示した手引書」等も作成されました。

このように、遠隔診療・オンライン診療については、時代の変化に応じて厚生労働省から頻繁に通知が出されており、規律内容にも変動が見受けられます。特に、オンライン診療が認められる要件や医療機関に求められるべき事項については年々詳細になっています。

現在も厚生労働省の検討会において、オンライン診療のさらなる活用・普及をテーマに精神科医療分野におけるオンライン診療について議論されるなど、今後も常に最新の動向を注視していく必要があるでしょう。

オンライン診療に関するビジネスを行う場合は、「最新の通知等の正確な理解」が必須です。
ご不安をお抱えの方は、当事務所までお問い合わせください。

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